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電気バスが走り蜂が飛ぶ-スウェーデンは気候中立に向かっている

1.新たにエコになった電動バス

スウェーデンのいくつかの都市では、排気ガスを放出しない電動バスの運用を開始した。電動バスとは、電気のみで走り、エネルギーを貯蔵するバッテリーを備えるバスのことである。再生可能電力を公共交通機関で利用することは、大気の質を改善し、住民に対する騒音を減らし、環境への負荷を減らすのに役立つ。

これらの理由はスウェーデンの電動バスへの移行を進める原動力となっている。ヨーテボリは2015年に電動バス路線を開始し、電動バスを早期に導入した。2021年には同市でおよそ150もの新しい電動バスの運用が始まった。ノールテリエ(Norrtälje)は全てのバスを電動にする取り組みを2018年に開始した。そして北部の町ピーテオ(Piteå)でも2021年に電動バスの導入を開始する計画がなされている。

Aerial view of lots of buses parked close together.

ヨーテボリの電気バス Photo: Jesper Wiberg

2.世界で最も高い木造建築の1つ

北部の町シェレフテオ(Skellefteå)はサーラ文化センター(Sara Cultural Centre)という普通でない新しい建物を建設しようとしている。この建物は完全に木で作られ、80メートルにも及ぶ世界で最も高い木造建築の1つになる。サーラ(Sara)という名前は有名なスウェーデンの作家であるサーラ・リドマン(Sara Lidma)から発想を得たもので、同センターは2021年秋の開業を予定している。

スウェーデンは真の森林の国である。事実、スウェーデンの3分の2は森林であり、木造建築の大きな可能性を秘めている。木材は再生可能・再利用可能な資源であるため、木造建築は持続可能性の観点からも完全に理にかなっている。20階建てのサーラ文化センターは、全ての木材が地元で調達されているので、輸送を不要とし、二酸化炭素排出量の減少にも役立っている。

スウェーデン全土では、2045年までにカーボンニュートラルを達成するという全体的な目標の取り組みの一環として、より多くの木造高層ビルが建設されている。

Sara Cultural Centre under construction. One photo with a towering building and a crane, one close-up of wooden walls.

木造のサーラ文化センターは、シェレフテオの町の景色を支配している。Photos (collage): Martinsons/ Jonas Westling

3.都市農業によるサステナビリティ

スウェーデンで食べられている野菜の半分以上は輸入品である。おそらくそれが都市農業の人気がますます高まっている理由の1つである。しょう。これは農業を消費者へ近づけることなのだ。

1921年に発足した市民農園協会(Koloniträdgårdsförbundet)は、スウェーデンで最も古い市民運動の一つであり、現在は持続可能な食品消費行動に焦点を当てている。会員は全国の市民農園を利用できる。都市に緑地を持つことの最大の利点の一つは生物多様性の増加であり、市民農園の様々な作物のもとで様々な生物が繁殖している。

垂直農法の人気も伸びている(ダジャレです)。グロンスカ(Grönska)はストックホルム郊外を拠点にしている食品技術のスタートアップで、屋内でハーブや野菜を栽培し、高い棚に植物をつり上げている。その利点は、食物を消費者に近づけながら、土地と水をあまり使用せず、1年を通して生産できることである。

Shelves with green plants.

グロンスカによる垂直農業 Photo: Claudio Britos

4.フードバンク

スウェーデン人の食品廃棄物は年間およそ130万トンである。フードバンクは食品の再配分によって食品廃棄物の削減を進める、つまりレストランやスーパーマーケットからの食品の寄付を、困窮している人々に受け渡すものである。

スウェーデンの都市ミッション慈善団体(stadsmissioner)は、いくつかのフードバンクを国内の各地で運営している。ストックホルムではマートミッションネン(Matmissionen)を運営しており、食品を割引価格で販売している。ヨーテボリでは、草の根の活動団体であるソリダリティ・フリッジ(Solidarity Fridge)がボランティアの「フードセーバー」たちから寄付された食品を市内の冷蔵庫のネットワークに配達し、人々がそこから無料で入手できるようにしている。この活動はヨーテボリ近郊の町アルビカ(Arvika)にも広がっている。

A dairy fridge in the Matmissionen supermarket.

「我々の乳製品は賞味期限切れが近いものが多いが、パンケーキの材料にすれば変わらず美味しい。」マートミッションネンの冷蔵庫 Photo: Anna Z Ek

5.都市に蜂の力を!

スウェーデンの都市部では養蜂ブームが起きている。ビー・アーバン(Bee Urban) などのいくつかのスウェーデン企業が、都市部の生態系や生物多様性の保全に寄与することを目的として、蜂の巣箱を保有する機会を自治体、企業、個人に提供している。ミツバチは蜂蜜を作るだけでなく、私たちが口にする作物の3分の1の受粉に関わっている。しかしながら蜂たちは気候変動、現代の農業活動、生物多様性の破壊によって絶滅の危険に瀕している。そこで今、都市部の庭や建物の屋上に蜂の巣箱を設置し、蜂に優しい環境づくりが進められているのである。

ヨーテボリにある人気レストランのアッパーハウス(Upper House)は地上83メートルの場所に小さな屋上庭園を所有し、そこにエコ認証された蜂の巣箱を設置している。このレストランは、都市の健全な生態系の維持に寄与しながら、そのミツバチが作った蜂蜜を食材として提供している。

養蜂ブームはスウェーデンの蜂(Svenka Bin)という新たな団体の設立も促した。同団体は、どれだけ蜂が私たちの都市に必要かという知識や認識を広げる活動を行っている。

Bees in a beehive.

たまには蜂の好きにさせよう(Let it bee)Photo: Simon Paulin/ imagebank.sweden.se

6.温暖化防止に貢献するシェアと思いやり

南部の都市マルメにあるセーゲ公園(Sege Park)は、持続可能で環境に優しい都市開発の新たなモデルとなっている。ここでは、安価な住まいの提供と地域におけるシェア経済の構築とを組み合わせている。住民たちが物やサービスを共有しやすくなることで、所有するものを減らしつつ、より多くのものを利用できるようにする、というのが、このシェア経済の考え方である。

木造の駐車場もこの計画の一部に含まれている。車の駐車スペースだけでなく駐輪場もあり、住人が自転車の修理を行う「自転車キッチン」や、車や自転車をシェアする「移動手段プール」が設けられる予定である。

セーゲ公園プロジェクトの将来的な構想は、都市の中心地に近い緑の多い地域に新しい静穏なコミュニティーを作り、そこでは再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素排出が無い地域を作るというものである。この古い病院のある公園地域は、改築や新築によっておよそ1,000件の新たな家を構える予定である。同プロジェクトはCEEQUALという根拠に基づく国際的なサステナビリティ評価システムにマルメ地域で初めて認証されたものである。

Illustration showing the vision for Sege Park: lots of green, people walking and children playing.

セーゲ公園の再開発構想 Illustration: Tyrens

Aerial view of the city Malmö, with Sege Park in the middle.

マルメ市の航空写真。前方に再開発前のセーゲ公園、後方に高層タワーのターニング・トルソ(Turning Torso)とエーレスンド(Öresund)橋が見える。Photo: Perry Nordeng

7.カンを見せよう

スウェーデンでは使用済みペットボトルや、アルミ缶の84%がリサイクルされている。誰でもペットボトルやアルミ缶を購入すると必ずデポジットを払わなければならないが、このデポジットは、リサイクルすれば戻ってくる仕組みになっている。

リサイクルの仕組みはかなり整備されているように見えるが、まだ改善の余地がある。目標は90%のリサイクルである。

スウェーデンのデポジットシステムは、小売店や飲料メーカーが所有する会社であるレトゥーパック(Returpack)が運営している。消費者はパントアウトマット(pantautomat)というスーパーなどに設置されている回収機にペットボトルや缶を入れる。消費者は多くの場合、デポジットを取り戻すか、その分をチャリティーに寄付するかを選ぶことができる。リサイクルされたボトルや缶はノルチェピング(Norrköping)市の回収拠点に運ばれ、リサイクルされて新たなボトルや缶に生まれ変わる。

この持続可能なリサイクルの仕組みはヨーロッパの中で最も古い施策の一つである。スウェーデンでは、消費を目的とした全ての飲料ボトルや缶は市場に出る前に、認可されたリサイクルシステムの中に組み込まれることが法律で義務付けられている。

Drink cans pressed together for recycling.

新たな命が吹き込まれるのを待つ古いカンたち。Photo: Crelle Fotograf

8.走行中に充電できるスマート道路

スウェーデンのゴットランド(Gotland)島では、電気トラックやバスが走行中に充電できる世界初のワイヤレス電気道路が開通した。これはヴィスビー(Visby)空港と市内中心部を結ぶ短い道路で、電動歯ブラシの充電器の働きと同様に、電磁場を利用した誘導によって電気自動車に電力が伝えられる。

スウェーデンの気候に関する目標の1つは、国内交通機関からの排出量を、2030年までに2010年と比べて少なくとも70%削減することである。その一環として、スウェーデン運輸庁(Trafikverket)は、2030年までに国内で最も交通量の多い2,000kmの道路を電化する計画を託されている。

この目標を達成するために、スウェーデン国内のさまざまな場所で電気道路の実験が行われている。ストックホルム・アーランダ(Arlanda)空港近くの道路では、2017年から車道に設置された電気レールで貨物車を充電している。またすでに2016年には、スウェーデンの都市イエブレ(Gävle)とサンドビーケン(Sandviken)を結ぶ高速道路で、公道上の世界初の電気道路区間が開通している。この電気道路は架空電力線を使用し、トラックには路面電車のようにパンタグラフが搭載されていた。このプロジェクトは2020年に終了した。
*国内航空は、EUの排出権取引制度(EU Emissions Trading System)に含まれるため、ここでは取り上げない。

Left: workers installing a rail in a road. Right: An electric lorry driving on the rail.

ストックホルム郊外のイーロード(e-road)プロジェクトでは、道路に敷設された線路から電気トラックに電気を供給している。Photo: (collage): eRoad Arlanda

9.太陽電池式の水素充填ステーション

2019年、スウェーデンのマリエスタッド(Mariestad)という町に、世界初のオフグリッドの(=送電網につながっておらず自給自足の)太陽光発電による水素製造・充填ステーションが一般公開された。このステーションは、近くの太陽電池設置場からの太陽エネルギーのみで100%稼働している。

この太陽エネルギーを利用して、電力網のバックアップ電源として使用可能な排出ガスのない水素ガスを製造することで、太陽光発電によるエネルギーを四六時中供給することができる。この水素ガスは、自動車、トラック、電車そして将来的には飛行機の燃料としても利用可能である。

このように、水素は、電気自動車が使用する高価なリチウム電池を必要とせず、化石燃料も不使用の、競争力ある輸送用燃料源となる可能性がある。

Aerial view of the town of Mariestad.

マリエスタッドは、よりサステナブルなエネルギーの解決策を見つけるべく積極的に活動している。この町のオフグリッド水素ステーションは世界初の大きな一歩である。Photo: Tuana/ Mariestads kommun

10.廃棄物から地域暖房に

1948年にスウェーデンで最初の地域暖房システムが導入されて以来、家庭の暖房のためのエネルギー効率の高い方法を提供すべく、さまざまな努力がなされてきた。スウェーデンの2番目に大きな都市であるヨーテボリでは、ほとんどのビルや家が地域暖房システムの地下パイプやケーブルのネットワークに接続されている。

電気や石油で各建物を個々に暖房する代わりに、この気候に配慮した廃棄物をエネルギーにする方法は、ゴミを燃やしたり、工業生産やデータセンターから集めた余剰熱などの地域資源を利用して水を温め、システムに接続されているすべての人々に供給するというものである。これにより、システム内の全エネルギーの93%をリサイクルまたは再生可能な資源から調達している。

ヨーテボリ市は、市営のエネルギー会社であるヨーテボリ・エナジー(Göteborg Energi)社を通じて、この効率的な方法を先導している。この方法は、市内のアパートのほか、約12,000軒の個人住宅、多くの産業、オフィス、店舗、公共施設で使用される暖房の90%をカバーしている。

スウェーデンでは、地域暖房が最も一般的な暖房の熱源となっている。ストックホルムでは、暖房の80%が地域暖房による。地域暖房は、コスト削減や二酸化炭素の排出量の削減など、環境面で大きなメリットがある。

A distric heating facility in Gothenburg, a tall and wide tower to the left; a tall and slim tower to the right.

ヨーテボリはシャレを利かせることで有名であり、写真左の60メートルの高い蓄積タンクは「魔法瓶」と呼ばれている。このタンクは地域暖房システムの余剰熱を蓄え、必要に応じて再供給できるようになっており、あたかも魔法瓶で飲み物を保温するようになっている。Photo: Göteborg Energi CC

原資料掲載ページ:https://sweden.se/climate/sustainability/10-ways-to-a-greener-future
翻訳時点の最終更新日 2021年6月1日
翻訳 廣田啓、吉田杏香、雜喉恋子
監修 明治大学国際日本学部教授 鈴木賢志
本稿は在日スウェーデン大使館から許諾をいただき、作成・公表しております。適宜修正することがあります。記載内容によって生じた損害については、一切責任を負いかねます旨、予めご了解ください。写真・図表はSweden.seに掲載されたものをそのまま転載しています。他サイトへのリンクは転載しておりません。

偉大な精神を持つ人は異なる考え方をする。ノーベル賞は優秀さを祝うものだ。

ノーベル賞は、世界で最も権威のある賞だと言われている。ノーベル賞は「前の年に、人類に最大の利益をもたらした者」に授与される賞である。物理学賞、化学賞、医学/生理学賞、文学賞、平和賞は1901年から、経済学賞は1968年から授与されている。

The Nobel Prize award ceremoni in Stockholm Concert Hall, with Queen Silvia, Prince Daniel, King Carl XVI Gustaf and Crown Princess Victoria seen to the right.

ノーベル賞授賞式 Fredrik Sandberg/TT

アフレッド・ノーベル(Alfred Nobel)記念経済学賞は、1968年にスウェーデンの中央銀行(国立銀行)によって設立された。これは1968年に、スウェーデン中央銀行が銀行の300周年を記念してノーベル財団に贈った寄付をもとに作られた。この賞はノーベル賞と同じ原則に従い、スウェーデン王立科学アカデミーによって授与されている。

発表は10月

ノーベル賞の受賞者は毎年10月の初めに発表される。そして12月10日の「ノーベル・デー」に、スウェーデンの首都ストックホルムとノルウェーの首都オスロで受賞式典が開催される。
これまで受賞した発見には、X線や放射線、ペニシリンなどがある。平和賞の受賞者には、ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)やダライ・ラマ14世(14th Dalai Lama)がいる。文学賞の受賞者は、ガブリエル・ガルシア・マルケス(Gabriel García Márquez)の「百年の孤独(One Hundred Years of Solitude)」やドリス・レッシング(Doris Lessing)の「草は歌っている(The Grass is Singing)」といった作品があり、読者をワクワクさせている。

受賞者の統計

1901年から2020年までの間に、ノーベル賞と経済学賞は57人の女性に授与された。マリー・キュリー(Marie Curie)は女性で2回の受賞歴があり、1903年に物理学賞、1911年に化学賞を受賞した。1909年に文学賞を受賞したスウェーデンのセルマ・ラーゲルレーヴ(Selma Lagerlöf)は女性で初めてノーベル文学賞を受賞した。

これまでで最年長のノーベル賞受賞者は、2019年に97歳で化学賞を受賞したジョン・グッドイナフ(John B. Goodenough)である。

2014年に17歳で平和賞を受賞したマララ・ユスフザイ(Malala Yousafzai)が最年少の受賞者である。

これまで4人の受賞者が強制的に辞退させられた。ドイツ人のリヒャルト・クーン(Germans Richard Kuhn)とアドルフ・ブテナント(Adolf Butenandt)は化学賞の受賞を、ゲルハルト・ドーマク(Gerhard Domagk)は医学・生理学賞の受賞を、アドルフ・ヒトラーによって禁じられた。ボリス・パステルナーク(Boris Pasternak)は、1958年に文学賞を受賞したが、のちにソビエト当局によって辞退させられた。

ヒトラーによって辞退させられた3人のドイツ人はのちに受賞したが、受賞金は受け取らなかった。

2名の辞退者

ジャン・ポール・サルトル(Jean-Paul Sartre)は、従来より全ての公的な賞与を断っており、1964年のノーベル文学賞も辞退した。
レ・ドュク・ト(Lê Ðức Thọ)は1973年にノーベル平和賞を辞退した。この賞は、彼がアメリカ国務長官のヘンリー・キッシンジャーと共にベトナム平和条約の交渉に尽力した事に対してのものであったが、当時のベトナムの現状では平和賞を受け取ることはできないとして断ったのである。

賞の設立者

ノーベル賞はスウェーデンの科学者、エンジニア、発明家、そして起業家でもあるアルフレッド・ノーベルの遺産である。
彼は1833年10月21日にスウェーデンのストックホルムで生まれ、1896年の12月10日にイタリアのサン・レモで亡くなった。
彼が1895年に書いた最後の遺書に、「資産の多くを基金に寄付し、その基金からの利子を年に一度の賞与として分配する」と書いてあり、これを元にノーベル賞が生まれた。
ノーベル自身の発明品としては、ブラストキャップ、ダイナマイト、無煙火薬などがある。彼が世界的に有名になったのは、1881年にスイスのアルプスにあるセント・ゴットハード・トンネル(St. Gotthard Tunnel)が初めてダイナマイトを大規模に使用して作られたことがきっかけである。
死亡時に、ノーベルは様々な国に355の特許を保有していた。彼は20カ国以上に会社を持ち、約90の工場でその特許に基づきあらゆる爆薬が製造されていた。ノーベルはスウェーデン、ロシア、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど、多くの国々で生活していた。

A painting of a man by a window.

エステルマン(E Österman)によるアルフレッド・ノーベルの死後に描かれた肖像画 Copyright © The Novel Foundation

A black-and-white photo of a pile of dynamite.

ノーベルはダイナマイトを自分の商売にした。Copyright © The Novel Foundation

A bust of Alfred Nobel in front of a wall of flowers.

アルフレッド・ノーベルはノーベル賞を通じて生きている。Copyright © Nobel Media AB 2016. Photo: Pi Frisk

Two hands holding a glass bottle with an old label and some dark fluid inside.

ノーベルの研究所にあったいくつかの古いボトルは保存されている。© Nobel Prize Outreach. Photo: Dan Lepp

A black-and-white photo of an old-looking laboratory.
「私が働いている場所が私の家であり、私はどこでも働いている」とノーベルは言った。これはイタリアのサンレモの研究所である。Photo: Image provided by the Novel Foundation

ノーベル財団

1900年にノーベル賞を授与する4つの機関がアルフレッド・ノーベルの意思に基づく民間機関であるノーベル財団の設立に同意した。ノーベル財団は、当時の通貨で3,100万クローナ、現在では46億クローナ(約600億円)以上となったノーベルの資産を管理し、公的な発表や授賞式の運営を行なっている。

ノーベル賞を授与する機関は4つある。
① スウェーデン王立科学アカデミー(Royal Swedish Academy of Sciences)
物理学賞、化学賞、経済学賞を授与。
②スウェーデン・アカデミー(Swedish Academy)
文学賞を授与。
③カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)ノーベル委員会
医学・生理学賞を授与。
④ノルウェーノーベル委員会
平和賞を授与。唯一ノルウェーにある機関で、ノルウェー議会によって任命された5人の議員で構成されている。

各ノーベル賞の賞金は、現在1,000万クローナである。各賞最大3人までが受賞でき、受賞者が複数の場合、賞金は受賞者の間で按分される。

ノーベル晩餐会
毎年12月10日のノーベル賞授賞式に続いてストックホルム市庁舎で晩餐会が開かれるのが伝統になっている。晩餐会には、約1,300人のゲストが招待される。

 

年表

ノーベル賞は、1901年から2020年までに603回の授与が行われ、962の人と組織が受賞した。

1901年
ヴィルヘルム・コンラッド・レントゲン(Wilhelm Conrad Röntgen)が✕線の発見により、初めてのノーベル物理学賞を受賞した。

1903年
マリー・キュリー(Marie Curie)が放射線の研究で女性初の物理学賞を共同受賞。彼女は1911年にも新元素ラジウムの発見によって化学賞を受賞している。

1905年
オーストリアの伯爵令嬢で作家のベルタ・フォン・スットナー(Bertha von Suttner)がドイツとオーストリアでの平和主義運動を評価され、女性初の平和賞を受賞。彼女は生前ノーベルと親交があり、平和賞の創設を促した人物として知られている。

1912年
スウェーデンの投資家で発明家のグスタフ・ダレンがAGA灯台の発明によって物理学賞を受賞。AGA灯台は以前のものよりガスの消費を90%の抑えることができた。

1914年〜1918年
第一次世界大戦により授与数が減少した。この間の唯一の平和賞は、負傷した兵士や捕虜、その家族を治療したとして赤十字国際委員会(International Committee of the Red Cross)が1917年に受賞した。赤十字国際委員会は、1944年、1963年にも平和賞を受賞している。1963年は赤十字社連盟(League of Red Cross Societies)との共同受賞であった。

1922年
アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)が理論物理学賞の研究・光学効果の法則の発見によって物理学賞を受賞。アインシュタインは1921年に受賞の知らせを受けていたが、実際の受賞は1922年であった(訳注 これにはアインシュタインがユダヤ人であったことも含め、アインシュタインの相対性理論の科学的有用性に対する批判が背景にあった)。

1939年〜1945年
第二次世界大戦のため、いくつかの賞が平時のように授与できなかった。

1945年
アレクサンダー・フレミング(Alexander Fleming)がペニシリンの発見によって医学・生理学賞を受賞。ペニシリンは20世紀後半に数百万人の命を救った。

1952年
セルマン・アブラハム・ワクスマン(Selman Abraham Waksman)が結核に効く初めての抗生物質であるストレプトマイシンを発見し、医学・生理学賞を受賞した。

1968年
経済学賞が新たに創設された。

1975年
腫瘍ウイルスと細胞の遺伝物質との相互作用に関する発見によりデビッド・ボルティモア(David Baltimore)、レナート・ドゥルベッコ(Renato Dulbecco)、ハワード・マーティン・テミン(Howard Martin Temin)が医学・生理学賞を共同受賞した。

1983年
アメリカ人のバーバラ・マクリントック(Barbara McClintock)は可動遺伝因子を発見したことによりノーベル生理学・医学賞を受賞した。

1993年
トニ・モリソン(Toni Morrison)が文学賞を受賞。スウェーデンアカデミーは「洞察力と詩的要素に性格付けられた彼の小説は、アメリカの現実の重要な側面に活気を与える」と述べている。

2004年
アーロン・チカノーバー(Aaron Ciechanover)、アブラム・ハーシュコ(Avram Hershko)、アーウィン・ローズ(Irwin Rose)は、ユビキチン介在性のたんぱく質分解を発見したことにより、化学賞を共同受賞した。

2010年
イギリスのロバートG.エドワーズ(Robert G. Edwards)が体外受精の開発により生理学賞・医学賞を受賞した。

2011年
スウェーデンの詩人であるトーマス・トランストマー(Tomas Tranströmer)が文学賞を受賞した。スウェーデンアカデミーは「彼は、濃縮された半透明のイメージを通じて、現実への新鮮な入り口を与えた」ことを受賞理由として述べている。

2018年
文学賞の授賞がなかった。当時危機の只中にあったスウェーデンアカデミーは、その年に賞を授与しなかった理由として、審査員の減員と国民の信頼の低下を挙げた。ただし2019年に、ペーター・ハントケ(Peter Handke)に授賞するのと並行して、オルガ・トカルチュク(Olga Tokarczuk)に2018年の文学賞を授与すると発表した。

2019年
エチオピアと隣の国のエリトリアの国境紛争の解決のために努力したとして、エチオピアの首相アビィ・アハメド・アリ(Abiy Ahmed Ali)に平和賞を授与した。この賞は、エチオピアと北アフリカ、東アフリカ地域で、平和と和解のために働いているすべての関係者に光を当てることも意図されていた。

他にも、マーティン・ルーサー・キング(Martin Luther King、1964年)、マザー・テレサ(Mother Teresa、1979年)、バラク・オバマ(Barack Obama、2009年)らが平和賞を受賞している。

2020年の受賞者
化学賞:フランスのエマニュエル・シャルパンティエ(Emmanuelle Charpentier)と、アメリカのジェニファー・A・ダウドナ(Jennifer A. Doudna)がゲノムの編集方法の開発によって受賞した。

文学賞:アメリカのルイーズ・グリュック(Louise Glück)が受賞した。その理由は、彼女の詩が「厳格で美しさを伴いながら、個人の存在を普遍的なものにする明白な詩的な声」であると評価されたことによる。

平和賞:国連世界食糧計画(WPF)が平和賞を受賞。「飢餓と戦う努力、紛争の影響がある地域に対して、平和のために状況を改善するための貢献、また、飢餓を戦争や紛争の武器として使用することを防止する原動力としての役割を果たした」ことが授賞理由である。

物理学賞:イギリスのロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)、 ドイツのラインハルト・ゲンツェル(Reinhard Genzel)、アメリカのアンドレア・ゲズ(Andrea Ghez)が受賞。ブラックホールの構造が、相対性理論を強固に予測するものであるという発見をしたことによる。

医学・生理学賞:アメリカのハーベイ・J・アルター(Harvey J. Alter)、イギリスのマイケル・ホートン(Michael Houghton)、アメリカのチャールズ・M・ライス(Charles M. Rice)が受賞。 C型肝炎ウイルスの発見による。

経済学賞:アメリカのポール・R・ミルグロム(Paul R. Milgrom)とロバート・B・ウィルソン(Robert B. Wilson)が、オークション理論の改良と、新たなオークション形式を開発したとして受賞。

原資料掲載ページ:https://sweden.se/work-business/study-research/the-swedish-nobel-prize
翻訳時点の最終更新日 2021年6月1日
翻訳 若槻英里香、馬田萌水
監修 明治大学国際日本学部教授 鈴木賢志
本稿は在日スウェーデン大使館から許諾をいただき、作成・公表しております。適宜修正することがあります。記載内容によって生じた損害については、一切責任を負いかねます旨、予めご了解ください。写真・図表はSweden.seに掲載されたものをそのまま転載しています。他サイトへのリンクは転載しておりません。

スウェーデンは廃棄物ゼロの社会を目指している。これはリサイクルからリユースへのステップアップを意味する。

A father and his daughter in a kitchen by a drawer with recycling.

リサイクルは楽しい。Photo: Margareta Bloom Sandebäck/imagebank.sweden.se

早朝、31歳のダニエル・シルバーステイン(Daniel Silberstein)はアパートの物置に自転車を取りに行く。しかしその前にまず、空き箱と包装部分を共同地下室のコンテナに分別する。これは、彼も含めたスウェーデン人達が、1年間で、1人当たりリサイクルしている2トン分のごみの、ほんの一部である。

「リサイクルは非常に機械的に行います。基本的にゴミをどこに分類するかというのは自動的に行うことです。それは私たちが日々行う「消費」の一部に過ぎません。」とシルバーステインは言う。彼は妻と娘のチャーリーとストックホルムの中心部に住んでいる。

「リサイクルをするのは、娘が将来、どんな環境で生活していくのかを考えているから、というのが大きいです。私は1990年代に子ども時代を過ごしたので、私たちにとってリサイクルは異常なことではありません。しかしきっと、チャーリーの世代には、もっと先へ進んでいるでしょう。すでに彼女は空き箱をリサイクルのコンテナへ入れるのを楽しみにしているのですから。」

2025年の食品廃棄物の目標

スウェーデン政府は、食品廃棄物を2020年から2025年にかけて重量ベースで20%削減することを目標としている。

リサイクルを超えて

今日の問題は、多くの必要不可欠な製品の廃棄が難しいということだ。全てのものが何らかの形で再利用されるように保証しようとする新しい運動は、着実に支持を集めている。

循環経済とは、完全に再利用できる製品を利用する、つまり「ゆりかごからゆりかごまで」というアプローチである。2018年にスウェーデン政府は循環経済を政府の政策の柱の1つとすべく、循環経済のための代表委員会(Delegationen för cirkulär ekonomi)という特別諮問委員会を設置した。

行動を変える

この動きの最前線には、ストックホルムの活発なデザインシーンから飛び出したスタートアップ企業の存在がある。「Beteendelabbet(行動研究室)」は、サステナブルな生活を実現する為の革新的なソリューションを模索している。スウェーデンの工業デザインの蓄積を利用し、ストックホルムの有名なデザインスクールの出身者を採用しているこの会社は、スウェーデン人の生活が今後どのように変化していくかを見据えている。

イダ・ルモアン(Ida Lemoine)はBeteendelabbetの創業者である。「私たちは、正しいことを無理なく出来るようにするサービスが必要だと考えています」と彼女は語る。「私たち自身も消費者として、全ての小物、服や家具、ワークスペースや家までも、シェアしたりリユースしたりできるようにしていく必要があると思います。」

Fashion from forests

素材は変わってゆく。これはボーロース(Borås)大学のスマート・テキスタイルズ(Smart Textiles)が製作した100%紙でできたドレスである。Photo: Anna Sigge/ Smart Textiles/ imagebank.sweden.se

スウェーデンのリサイクル-主なデータ

  • 2020年に、4,839,430トンの家庭廃棄物が処理された。これは1人当たり年間467キロに相当する。
  • 2020年に、家庭用廃棄物の46%がエネルギーに変換された。
  • 2019年に、ボトル・カンの84%がリサイクルされた。政府目標は90%。
  • 包装材の70%がリサイクルされた。

出所: Swedish Waste Management Association, Swedish EPA

修理、リサイクル、研究

2017年にスウェーデン政府は、中古品の修理をより安く行えるよう、税制度を改革した。2020年から、ストックホルムにあるH&Mの客は、いらなくなった洋服を新しい服の素材としてリサイクルできるようになった。これは「ループ」と呼ばれ、衣服から衣服へというシステムの一つである。古い洋服は洗浄されたのち、繊維に細断、紡いで糸にし、それを編むことで新しいファッションに生まれ変わるのだ。

他方、研究者たちは環境負荷の少ない新しい素材の発見に尽力している。

A big glass cube in a room; inside are machines and people.

H&Mの「ループ」は、不要な洋服を新たなファッションに変える。Photo: H&M

リサイクルからのステップアップ

ルモアンは「まず初めに、日常の行動や習慣をどのように変えていけばよいかを考えるのが良いのです」と述べている。彼女とそのチームは「ナッジング(nudging)」という概念を使って、人々の身の回りやライフスタイルに小さな変化を与え、私たちがサステナブルに生きられるようにすることを目指している。

「大きな変化をもたらすために消費者ができることは、肉を食べる量を減らすこと、物を捨てるのをやめること、飛行機に乗るのをやめることの3つです。」と彼女は言う。

パント・システム(The pant system)

スウェーデンでは、アルミ缶は1984年から、ペットボトルは1994年から、リサイクルするとお金が戻ってくるカン・ボトルのデポジット制度を導入している。スウェーデンでは毎年、18億本のボトルやカンがリサイクルされているが、これはパント・システムと呼ばれている。これにちなんで、スウェーデン語には「パンタ」という動詞もある。

A man is holding a small child. Together they push a plastic bottle into a machine,

スウェーデン人はカン・ボトルの8割をリサイクルしている。Photo: Margareta Bloom Sandebäck/ imagebank.sweden.se

汚れ仕事を行う

スウェーデンのリユース革命は、ゴミ処理という文字通りの汚れ仕事をする人々がいなければ実現できない。

スウェーデン廃棄物処理協会(Swedish Waste Management Association)は、モノがより長く、より賢い方法で使用される循環経済への移行を促進している。例えば、市民や消費者が自分の行動を変えるように動機づけ、導いている。さらに人々が自分で必要な分別を行うために必要なインフラの整備も行っている。

気候変動の脅威のが高まりを受けて、スウェーデンでは、バスからアパートの暖房システムに至るまで廃棄物による発電を用いている。ゴミは低炭素焼却炉で燃やし、食品廃棄物は気候変動にやさしいバイオガス燃料の製造に利用されている。

A man is pushing a waste bin toward a truck.

ゴミ収集の電気自動車 Photo: Sofia Sabe/ imagebank.sweden.se

未来に向かって

ダニエル・シルバースタインとチャーリーにとって、未来は家庭から始まっている。

「お友達は路上にゴミをポイ捨てしたらダメだよね」とチャーリーが言い、父親がうなずく。

「いま私たちが化石燃料や埋め立て地を見るような目で、将来の私たちは古いリサイクルのやり方を見るのだろう。そしておそらく全てがおかしく見えることだろう。」

原資料掲載ページ:https://sweden.se/climate/sustainability/recycling-and-beyond
翻訳時点の最終更新日 2021年6月1日
翻訳 坂入圭吾、古瀬遥
監修 明治大学国際日本学部教授 鈴木賢志
本稿は在日スウェーデン大使館から許諾をいただき、作成・公表しております。適宜修正することがあります。記載内容によって生じた損害については、一切責任を負いかねます旨、予めご了解ください。写真・図表はSweden.seに掲載されたものをそのまま転載しています。他サイトへのリンクは転載しておりません。

調節可能なレンチからデジタル医師まで、これがスウェーデンにおける10のイノベーションだ。

A zip in a black jacket.

スウェーデンの効率性の最もシンプルな形-ジップしよう! Photo: Amanda Westerbom/imagebank.sweden.se

1.調節可能なレンチ(モンキーレンチ)

工具箱でよくみられる、モンキーレンチやイングリッシュキーとも呼ばれる、ボルトやナットを締める調節可能なレンチは日曜大工の際にとても重宝する道具である。最初の型のスパナは1842年にイギリス人のエンジニアであるリチャード・クライバーン(Richard Clyburn)が発明したものであるが、現在使われている、調節可能なレンチ、スウェーデンキーは、スウェーデン人発明家であるヨハン・ぺター・ヨハンソン(Johan Petter Johansson)がクライバーンの元の型を改良し、1891年に特許を取得したものである。

An adjustable wrench that lies diagonally.

調節可能なレンチーどこの家にもある? Photo: Bildarkivet

2.デジタル医師

スウェーデンのスタートアップ企業はデジタルヘルスケアやヘルステック分野において世界をリードしている。携帯、人工知能(AI)、その他の技術から、様々な形式のヘルスケア情報にアクセスすることが可能なシステムを提供している。KRYは医師と患者を繋ぐアプリであり、医師や心理士がオンライン上で患者を診ることができる。これは大きな注目が集まったと同時に、物議をかもしている。この企業はスウェーデンやノルウェー、スペインなどの公的資金で賄われる医療制度と併用してサービスを提供している。

このサービス以外にも、スウェーデンではオンラインで医師に診察してもらえるMin Doktor、Flow Neuroscience、Doctrin、Joint Academyなどのオンライン診察サービスがある。

A man in a white shirt seen without his head. He's holding a mobile phone in one hand, on the table in front of him is a stethoscope.

ヘルスケアアプリのおかげで、家で医師の診察を受けることができる。Photo: mindoktor.se

3.ベター・シェルター

ベター・シェルターとはフラットパック(平箱包装)の緊急避難シェルターである。このシェルターは鍵付きのドアやた太陽光パネルのついた、雨風にも強く、安全な17.5平方メートルの住居を難民に提供する。少なくとも3年は住めるように設計されており、その上、従来の難民用テントよりも断熱効果が高い。輸送しやすく組み立てやすい、持続可能かつ費用対効果が高く設計されている製品のため、何千ものベター・シェルターが多くの国々で提供されている。ベター・シェルターはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)とイケア財団によって共同開発された。

Two grown-ups and two children sitting on cushions on the floor in a tent with solid walls.

イラクのカウルグスク(Kawergosk)のベター・シェルター家屋。Photo: Erik Hagman

4.スウェーデン発のアプリ「カルマ(Karma)」

みなさん、カルマをご存知だろうか?カルマは食品廃棄の問題をチャンスに変えられる。カルマはスウェーデンの起業家たちが立ち上げたアプリである。このアプリを介して、スーパーやレストラン、カフェは期限が近い余った食品を廃棄してしまう代わりに半額で販売することができる。たった2年間で、カルマはスウェーデンやイギリス、フランスで140万人ものユーザーを集めたとしている。

食品廃棄を減らすことはスウェーデン政府の課題でもある。「より多くのことを行うために、より多く努力する(More to do more)」はスウェーデンの環境保護庁と国家食品庁、スウェーデン農業委員会が掲げる活動方針である。これは2030年までにスウェーデン全体で食品廃棄を減らすことを目標としている。

A photo taken from above showing a woman at a counter holding out a hand with a mobile phone. Another person's hand is seen at the bottom of the picture, next to a computer screen. On the counter is also a bowl of food.

カルマは食品を廃棄から救う可能性がある。Photo: Karma

5.オーツミルク

北欧地域の雨に恵まれた気候はオーツ麦を育てるには最適な環境である。それに加え、スウェーデンはこの健康的な穀物を様々な方法で活用するために研究を重ねている。スウェーデンのブランドであるオートリー(Oatly)は恐らく代用乳の製品として最も有名ではないだろうか。オーツミルクはオートリーの創設者でもある、ルンド大学の食品科学者リカード・エステ(Rickard Öste)によって開発された。それ以降、オーツミルクは世界中の様々なスーパーやコーヒーショップで(、また乳産業におけるサステナビリティの議論において)主要な製品となった。

スウェーデンの農業協同組合(Lantmännen)もオーツの研究に投資している。ちなみにそこでは食品の研究のみならず、オーツ麦から家具を作るという新たな研究も行われている!

A close-up of oats in a field.

オーツはコレステロール値を下げる、血糖値を上げにくくする、さらにビタミンやミネラル、食物繊維、抗酸化物質を含むなどの多くの健康効果があると言われている。Photo: Helena Wahlman/ imagebank.sweden.se

6.ペースメーカー

1958年にルネ・エルムクヴィスト(Rune Elmqvist)は、電池式の人工ペースメーカーを開発し、ストックホルムのカロリンスカ(Karolinska)大学病院でオーケ・セニング(Åke Senning)医師による史上初のペースメーカー手術に使用された。ペースメーカーは心臓病患者の皮膚の下に設置され、ペースメーカーが生み出す電気パルスが筋肉を正常に伸縮させ、心臓を調整する。

A pacemaker standing up on a table.

世界中で100万個以上のペースメーカーが移植されている。Photo: Lars Lundberg/ imagebank.sweden.se

7.3点式シートベルト

今や全ての乗用車に標準設備されており、6分に1つの命を救っている3点式のシートベルトは、1959年にスウェーデンの発明家で安全エンジニアであったニルス・ボーリン(Nils Bohlin)がボルボ(Volvo)車用に開発した。このシートベルトは、事故が起きた際に動いてしまう身体にエネルギーを分散させるためにY字型のデザインになっている。

A black-and-white photo of a man in a car wearing a seatbelt.

ニルス・ボーリンは1959年に3点式シートベルトを発明した。Foto: Volvo Car Group

8.ユニティ(Uniti)

スウェーデンは電気自動車への移行における世界のリーダーであり、2030年までに100%化石燃料を使わない自動車に移行することを約束している。スウェーデンがこの分野で最も優れている例の一つが、「大都市のためのテスラ」と呼ばれる軽量電気自動車を開発するスタートアップ企業のユニティ(Uniti)である。同社はクラウドファンディングのキャンペーンを行い、2019年に実用化が予定された初期モデルの予約注文を約3,000台受け付けた。

A futuristic-looking, silver-coloured car driving on the road between parked cars on each side.

ユニティ・ワン(Uniti One)は「大都市のためのテスラ」となるか? Photo: Uniti

9.歩行補助機

スウェーデンの社会科学者であるアイナ・ウィファルク(Aina Wifalk)は21歳の時に、一時的あるいは恒常的な麻痺を引き起こすウイルスであるポリオを患った。彼女は杖を20年間使用して肩を痛めた末に、歩行器を発案した。この発明品は、1970年代後半から高齢者や障がい者の暮らしを楽にしてきた。彼女はできるだけ多くの人が歩行器を使えるよう、特許を取らなかった。今日まで、あなたたちの祖父母が元気に動けるよう、歩行器が支えてくれている。

An elderly woman in a park walking with a walking frame together with a younger woman.

現代の歩行器はアイナ・ウィファルクの発案である。Photo: Sofia Sabel/ imagebank.sweden.se

10 .ジッパー(ファスナー)

私たちになじみのある現代のジッパーは、1913年にスウェーデン系アメリカ人発明家であるギデオン・スンドベック(Gideon Sundbäck)が、それまでの非効率なモデルを改良し、発展させたものである。彼が新たに再設計した「分離可能なファスナー」は、1917年に特許を取得し、連結された歯をスライダーによってつなぎ合わせ、切り離すという特徴を有している。

原資料掲載ページ:https://sweden.se/work-business/business-in-sweden/10-swedish-innovations
翻訳時点の最終更新日 2021年6月1日
翻訳 舌間千夏、出原未彩
監修 明治大学国際日本学部教授 鈴木賢志
本稿は在日スウェーデン大使館から許諾をいただき、作成・公表しております。適宜修正することがあります。記載内容によって生じた損害については、一切責任を負いかねます旨、予めご了解ください。写真・図表はSweden.seに掲載されたものをそのまま転載しています。他サイトへのリンクは転載しておりません。

グレタ、皇太子、そして、バタフライのメダリスト。スウェーデンのすごい女性をアルファベット順でご紹介!

Portrait of Zara Larsson wearing a pink dress with a spike-like surface.

ザラ・ラーソン(Zara Larsson)は、彼女の勝負で頂点に立った。アルファベット順なので、このリストでは最後になるが。Photo: Jordan Rossi

1. キャロライン・ファーバーガー(Caroline Farberger)-CEO

キャロライン・ファーバーガーは、スウェーデンの大手保険会社であるICA保険(ICA Försäkring)の最高経営責任者であり、トランスウーマンであることを公表している。キャロラインが公式にカミングアウトすることを決めたとき、彼女は、特に企業社会において、性的マイノリティの人々が本当の自分でいる強さと勇気を見つけることを奨励したいと述べていた。2019年には、スカンジナビア最大のLGBTメディア出版社であるQXが主催するイベント「QX Gala」でLGBTQパーソン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

キャロラインは、2020年に発売された自伝「私、キャロライン:仕事では女性・家庭では父親(Jag, Caroline:Yrkeskvinna och familjefar)」で、彼女の人生の旅について語っている。

Portrait of Caroline Farberger leaning against a wall.

ICA保険のCEO、キャロライン・ファーバーガー。Photo: Andreas von Gegerfelt/Mondial

2.グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)-気候活動家

2018年8月の平凡な金曜日、抗議のサインを持つ15歳の子がスウェーデン議会の外に座っているのが目撃された。看板には「気候のための学校のストライキ」と書かれている。当時、この女の子1人だけの行動が、環境のための大規模でグローバルな動きの始まりになるとは、誰も想像しなかったであろう。

グレタ・トゥーンベリと彼女のフライデーズ・フォー・フューチャー(Fridays for Future)の運動は、気候の危機に関するスウェーデンの政治家の行動の認識に対する欠如に抗議するために、たった一人で、毎週金曜日に学校のストライキをすることから始まり、現在では228カ国で1,300万人を巻き込んでいる。そして、2019年から2020年にかけて、彼女のインスタグラムのフォロワー数は2,500%以上増加し、1,000万人に達している。

2019年9月にニューヨークで開催された国連気候行動サミットで、トゥーンベリは世界の指導者たちに事実を認め、行動を始めるよう促した。

「私はここにいるべきではありません」と彼女は言った。「私は海の反対側の学校に戻るべきです。しかし、皆さんは希望を求めて私たち若者を頼りにします。よくもまあ。あなたの口先だけの言葉によって、私の夢と私の子供時代は盗まれました。とはいえ、私はまだ幸運な方です。人々は苦しんでいます。」

Greta Thunberg with a sign that says 'School strike for the climate'.

2019年9月の国連気候行動サミットで演説する前のグレタ・トゥーンベリ。Photo: Alba Vigaray/EPA/TT

3. ヘレナ・サムシオエ(Helena Samsioe)-ドローンクイーン

ヘレナ・サムシオエは自信に満ち溢れており、「車だと4時間かかるものを、ドローンは20分で解決できます」と彼女が言うと、それは信憑性が高く聞こえます。おそらく、それは他の人が問題しか見つけられないテーマについて、解決策を見つけることのできる彼女の能力であり、彼女を素晴らしい起業家にしている理由でもある。

サムシオエは世界の様々な地域で育った。彼女の両親は医者で、援助活動の旅に彼女を同行させていた。これにより、サムシオエは世界がスウェーデンのようではないことを知り、それが問題解決に対する衝動を引き起こした。

2015年、彼女はドローンを使用して画像データを取得する会社、グローベ(Globhe)を設立した。この画像データは、世界中の病気の発生を予防し、対処するために使用されている。例えば、2018年、マラウイにおけるコレラの発生時に、グローベは、感染者数を国連に通報し、そのおかげで国連がより効率的に対処することができた。ドローンはアフリカの多くの農村部で血液、ワクチン、医薬品を提供するためにも使用されている。

サムシオエは、スウェーデン最大のイノベーション賞の1つであるスカパ(Skapa)賞を受賞し、フォーブズ誌において、ヨーロッパと世界における、技術で活躍する女性トップ50に選ばれた。さらに2020年1月には、インパクトがあり、革新的で刺激的な、持続可能である解決策を推進したということで、グローベはザイード(Zayed)サステナビリティ賞を受賞した。

Portrait of Helena Samsioe with a drone on the table in front of her.

グローべの創設者、ヘレナ・サムシオエ。Photo: Tobias Björkgren

4・5.イザ&エル・クライサンサンダー(Iza / Elle Cryssanthander)-TikTokのセレブ

イザとエルって誰かって? 少なくともあなたがティーンならば、2人はスウェーデンで最も有名なティーンなのだ。

彼女たち双子は2016年、当時11歳の時にミュージカリー(Musically)というアプリをダウンロードし15秒のダンス動画を作り始めた。彼女たちが有名になるまで、そう長くはかからなかった。すぐに全世界向けのアプリ内ページで特集され、世界中から大きな注目を集めた。

ミュージカリーは現在ティックトック(TikTok)となり、2020年に約10億回のダウンロードを記録し、この年に最もダウンロードされたアプリとなった。イザとエルのティックトックのフォロワー数は、スウェーデン最大の500万人を超えている。彼女たちが日常的にアップロードするダンス動画は2019年ニコロデオンのキッズチョイスアワードを受賞し、ダンスを通して自分自身を表現するということを世界中の子供達に伝えている。

6.コソヴァレ・アスラニ(Kosovare Asllani)-プロサッカー選手

コソヴァレ「コッセ」アスラニは、彼女のサッカー人生の早い段階で、コーチからスピードとテクニックで高い評価を受けており、2019年の女子ワールドカップでそれを証明した。

彼女はそのワールドカップにおいて、チームのフォワードとして、1回戦の対チリ戦、2回戦の対タイ戦、そしてイングランドとの3位決定戦で、3つの重要なゴールを決めた。

スウェーデンは長い間、女子サッカーに関しては世界の中でも最も優れたチームの1つであった。サッカーはスウェーデンの国技ではなく、女子サッカーの成功が大きな話題を呼んだこともなかった。しかし2019年のワールドカップでの銅メダル獲得により、チームの支持が劇的に増加し、アスラニやチームが国の代表にふさわしいと認識されるようになった。

アルバニアにルーツを持つ彼女は、そのバックグラウンドを誇りに、アルバニアの国旗に描かれる黒い双頭の鷲を、タトゥーにして足首に付けている。

Kosovare Asllani in a yellow Sweden T-shirt with her arms out.

コソヴァレ・アスラニは、スウェーデンの女子サッカーの地位の確立に貢献した。Photo: Simon Hastegård/Bildbyrån

7.ロベッテ・ヤロウ(Lovette Jallow)-ライター、講師、活動家

ロベッテ・ヤロウは無敵に思える。彼女はSNSのインフルエンサーとして、また基調講演者として、人種差別や性差別の撤廃のために精力的に取り組んでいる。彼女は、ヨーロッパ誌史上初となる黒人のためのスキンケアやメイクアップについて取り上げた「ブラック・ヴォーグ:美のニュアンス(Black Vogue: the Nuances of Beauty)」を執筆、出版した。また2017年には、8,000人を集めリビアの奴隷貿易で売買された移民に関する抗議行動を起こした。

ヤロウはガンビアで育ち、彼女が11歳の時スウェーデンにやってきた。学校生活は決して楽とは言えないものであった。彼女は、他のクラスメイトよりも暗色の肌を持っていたことを理由にいじめられた。しかい13歳のある日、教壇に立ってなぜ彼女の肌が黒いのかについて、クラスメイトたちに向けて講演を行った。つまり彼女は、そんな幼い頃から差別撤廃活動を始めていたのだ。そしてどうやら、その原点は彼女の血筋にあるようだ。彼女の祖母はガンビア政府の大臣を務めた人物で、女性の権利確立や中絶、避妊薬の入手方法の普及などに尽力していたのである。

Portrait of Lovette Jallow in a blue suit and a scarf on her head sitting down looking straight into the camera.

ロベッテ・ヤロウは多くの面で影響力を持っている。Photo: Kuntavisuals

8.トーべ・アレクサンダーソン(Tove Alexandersson)-オリエンテーリング、スキーオリエンテーリング選手

(訳注:オリエンテーリングとは、野山を地図とコンパスを頼りに、出発点からいくつかの関門地点を発見し、それらを経て、目的地点まで歩き、それにかかった時間を競う競技である。またスキーオリエンテーリングは、基本的にオリエンテーリングと同じことを雪山で地図を見ながらクロスカントリースキーで行う競技である。)

彼女は、オリエンテーリングとスキーオリエンテーリングの選手であるが、その言葉だけで彼女を言い表わすことはできない。彼女は半超人的な能力を持っている。2011年に初めて世界選手権で金メダルを取って以来、彼女は3種類のスポーツで、現在までに世界選手権を21回、ヨーロッパ選手権を14回制覇している。

トーベ・アレクサンダーソンは、勝つために生まれてきたように見える。2018年に、急な坂や高山を走り抜ける、スカイランニングという競技に挑戦した際、彼女は大会に参加するのが人生で2回目だったにも関わらず、世界チャンピオンに輝いた。そしてなんと、実は初めてのスカイランラングで参加した大会でも、優勝を飾っている。この勝利により、彼女は3種目の競技で、世界チャンピオンの称号を手にしたのである。

アレクサンダーソンが、今まで獲得したメダルをどこに保管しているのか気にならないだろうか?

彼女はスウェーデンのフィルター(Filter)という雑誌で「メダルは部屋に散らかしっぱなしか、バッグに入れっ放しよ」と答えている。

Tove Alexandersson skiing.

ピテオ(Piteå)で行われた2019年のスキーオリエンテーリングの世界選手権でのトーベ・アレクサンダーソン。Photo: Sven Alexandersson

9.ヴィクトリア(Victoria)-皇太子

1977年の夏、スウェーデンのプリンセスとしてヴィクトリアは生まれた。ヴィクトリアは初め、カール16世グスタフの最初の子供であるのにも関わらず、スウェーデンの法では男性が王位を継承すると定められていたため、王位継承権が与えられていなかった。しかし、数年でこの法は変わった。1980年の法改正で、性別にかかわらず、一番年長の子供が王位を継承することが制定された。この改正により、将来ヴィクトリアが18世紀以降のスウェーデンで初めての女性の元首となり、史上三人目のスウェーデンの女王になることが決まった。

王室に対する支持は初めから与えられているわけではないが、ヴィクトリア皇太子は国民に人気がある。その理由は、彼女が、現代的で、オープンマインドであること、また子供の権利を強く主張しているからである。1997年に、彼女は障害や慢性の病気を抱えている子供たちが活発な生活を送ることができるよう、皇太子ヴィクトリア基金(Kronprinsessan Victorias fond)を設立した。また、彼女の夫であるダニエル王子も子供の健康に関する問題に取り組んでいる。このロイヤルカップルには、2012年に生まれたエステル王女と、2016年に生まれたオスカー王子という二人の子どもがいる。

Crown Princess Victoria in a football T-shirt being shown something on a woman's mobile phone.

ヴィクトリア皇太子は、将来スウェーデンの女王になることが約束されている。Photo: Royal Court of Sweden

10.ザラ・ラーソン(Zara Larsson)-シンガーソングライター

2015年にザラ・ラーソンは18歳という若さで、彼女自身の国際的な音楽キャリアをすでに作り上げていた。彼女は幼い頃から活動しており、2008年に、イギリスやアメリカなどで放送されているオーディション番組、ゴッドタレントのスウェーデン版、タラング(Talang)で、10歳という若さで優勝した。また、2010年代の中頃に、ザラは「Lush life」やグラミー賞ノミネート歌手であるMNEKが後半フーチャリングとして参加した「Never Forget you」という曲で、世界的なヒットを生んだ。「Never Forget you」はアメリカを含む複数の国で、ミリオンヒットとなった。

ラーソンの曲はR&B、そしてクラブ音楽に影響を受けたダンスポップであると表現される。そして、彼女はフランスのDJであるDavid Guettaなどたくさんのビッグネームとコラボしている。その中からコラボの代表例として、3曲紹介しよう。1曲目は、2016年のUEFAヨーロッパカップのテーマ曲である「This One’s for you」。2曲目は、クロスオーバーバンドであるClean Banditと2017年にコラボした「Sympony」。3曲目は、ノルウェーのDJ KygoとアメリカのラッパーTygaと2020年にコラボした「Like it is」である。ちなみに彼女が全世界に向けて初めて発売したアルバムは、2017年の「So Good」というアルバムであった。

また、ラーソンは、フォーブス誌とその地域版で毎年発表している世界に多大な影響を与える30歳以下の30人の、ヨーロッパ版 「30 Under 30 Europe」のエンターテイメント部門に2018年に選出されている。現在、今年リリースされたシングル「Poster Girl」 がどこまで伸びるか注目されており、今後の活躍に注目が集まっている。

原資料掲載ページ:https://sweden.se/life/people/10-swedish-superwomen
翻訳時点の最終更新日 2021年6月1日
翻訳 菅野理紗子、増井薫乃、堀友里乃
監修 明治大学国際日本学部教授 鈴木賢志
本稿は在日スウェーデン大使館から許諾をいただき、作成・公表しております。適宜修正することがあります。記載内容によって生じた損害については、一切責任を負いかねます旨、予めご了解ください。写真・図表はSweden.seに掲載されたものをそのまま転載しています。他サイトへのリンクは転載しておりません。