電気バスが走り蜂が飛ぶ-スウェーデンは気候中立に向かっている
1.新たにエコになった電動バス
スウェーデンのいくつかの都市では、排気ガスを放出しない電動バスの運用を開始した。電動バスとは、電気のみで走り、エネルギーを貯蔵するバッテリーを備えるバスのことである。再生可能電力を公共交通機関で利用することは、大気の質を改善し、住民に対する騒音を減らし、環境への負荷を減らすのに役立つ。
これらの理由はスウェーデンの電動バスへの移行を進める原動力となっている。ヨーテボリは2015年に電動バス路線を開始し、電動バスを早期に導入した。2021年には同市でおよそ150もの新しい電動バスの運用が始まった。ノールテリエ(Norrtälje)は全てのバスを電動にする取り組みを2018年に開始した。そして北部の町ピーテオ(Piteå)でも2021年に電動バスの導入を開始する計画がなされている。
ヨーテボリの電気バス Photo: Jesper Wiberg
2.世界で最も高い木造建築の1つ
北部の町シェレフテオ(Skellefteå)はサーラ文化センター(Sara Cultural Centre)という普通でない新しい建物を建設しようとしている。この建物は完全に木で作られ、80メートルにも及ぶ世界で最も高い木造建築の1つになる。サーラ(Sara)という名前は有名なスウェーデンの作家であるサーラ・リドマン(Sara Lidma)から発想を得たもので、同センターは2021年秋の開業を予定している。
スウェーデンは真の森林の国である。事実、スウェーデンの3分の2は森林であり、木造建築の大きな可能性を秘めている。木材は再生可能・再利用可能な資源であるため、木造建築は持続可能性の観点からも完全に理にかなっている。20階建てのサーラ文化センターは、全ての木材が地元で調達されているので、輸送を不要とし、二酸化炭素排出量の減少にも役立っている。
スウェーデン全土では、2045年までにカーボンニュートラルを達成するという全体的な目標の取り組みの一環として、より多くの木造高層ビルが建設されている。
木造のサーラ文化センターは、シェレフテオの町の景色を支配している。Photos (collage): Martinsons/ Jonas Westling
3.都市農業によるサステナビリティ
スウェーデンで食べられている野菜の半分以上は輸入品である。おそらくそれが都市農業の人気がますます高まっている理由の1つである。しょう。これは農業を消費者へ近づけることなのだ。
1921年に発足した市民農園協会(Koloniträdgårdsförbundet)は、スウェーデンで最も古い市民運動の一つであり、現在は持続可能な食品消費行動に焦点を当てている。会員は全国の市民農園を利用できる。都市に緑地を持つことの最大の利点の一つは生物多様性の増加であり、市民農園の様々な作物のもとで様々な生物が繁殖している。
垂直農法の人気も伸びている(ダジャレです)。グロンスカ(Grönska)はストックホルム郊外を拠点にしている食品技術のスタートアップで、屋内でハーブや野菜を栽培し、高い棚に植物をつり上げている。その利点は、食物を消費者に近づけながら、土地と水をあまり使用せず、1年を通して生産できることである。
グロンスカによる垂直農業 Photo: Claudio Britos
4.フードバンク
スウェーデン人の食品廃棄物は年間およそ130万トンである。フードバンクは食品の再配分によって食品廃棄物の削減を進める、つまりレストランやスーパーマーケットからの食品の寄付を、困窮している人々に受け渡すものである。
スウェーデンの都市ミッション慈善団体(stadsmissioner)は、いくつかのフードバンクを国内の各地で運営している。ストックホルムではマートミッションネン(Matmissionen)を運営しており、食品を割引価格で販売している。ヨーテボリでは、草の根の活動団体であるソリダリティ・フリッジ(Solidarity Fridge)がボランティアの「フードセーバー」たちから寄付された食品を市内の冷蔵庫のネットワークに配達し、人々がそこから無料で入手できるようにしている。この活動はヨーテボリ近郊の町アルビカ(Arvika)にも広がっている。
「我々の乳製品は賞味期限切れが近いものが多いが、パンケーキの材料にすれば変わらず美味しい。」マートミッションネンの冷蔵庫 Photo: Anna Z Ek
5.都市に蜂の力を!
スウェーデンの都市部では養蜂ブームが起きている。ビー・アーバン(Bee Urban) などのいくつかのスウェーデン企業が、都市部の生態系や生物多様性の保全に寄与することを目的として、蜂の巣箱を保有する機会を自治体、企業、個人に提供している。ミツバチは蜂蜜を作るだけでなく、私たちが口にする作物の3分の1の受粉に関わっている。しかしながら蜂たちは気候変動、現代の農業活動、生物多様性の破壊によって絶滅の危険に瀕している。そこで今、都市部の庭や建物の屋上に蜂の巣箱を設置し、蜂に優しい環境づくりが進められているのである。
ヨーテボリにある人気レストランのアッパーハウス(Upper House)は地上83メートルの場所に小さな屋上庭園を所有し、そこにエコ認証された蜂の巣箱を設置している。このレストランは、都市の健全な生態系の維持に寄与しながら、そのミツバチが作った蜂蜜を食材として提供している。
養蜂ブームはスウェーデンの蜂(Svenka Bin)という新たな団体の設立も促した。同団体は、どれだけ蜂が私たちの都市に必要かという知識や認識を広げる活動を行っている。
たまには蜂の好きにさせよう(Let it bee)Photo: Simon Paulin/ imagebank.sweden.se
6.温暖化防止に貢献するシェアと思いやり
南部の都市マルメにあるセーゲ公園(Sege Park)は、持続可能で環境に優しい都市開発の新たなモデルとなっている。ここでは、安価な住まいの提供と地域におけるシェア経済の構築とを組み合わせている。住民たちが物やサービスを共有しやすくなることで、所有するものを減らしつつ、より多くのものを利用できるようにする、というのが、このシェア経済の考え方である。
木造の駐車場もこの計画の一部に含まれている。車の駐車スペースだけでなく駐輪場もあり、住人が自転車の修理を行う「自転車キッチン」や、車や自転車をシェアする「移動手段プール」が設けられる予定である。
セーゲ公園プロジェクトの将来的な構想は、都市の中心地に近い緑の多い地域に新しい静穏なコミュニティーを作り、そこでは再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素排出が無い地域を作るというものである。この古い病院のある公園地域は、改築や新築によっておよそ1,000件の新たな家を構える予定である。同プロジェクトはCEEQUALという根拠に基づく国際的なサステナビリティ評価システムにマルメ地域で初めて認証されたものである。
セーゲ公園の再開発構想 Illustration: Tyrens
マルメ市の航空写真。前方に再開発前のセーゲ公園、後方に高層タワーのターニング・トルソ(Turning Torso)とエーレスンド(Öresund)橋が見える。Photo: Perry Nordeng
7.カンを見せよう
スウェーデンでは使用済みペットボトルや、アルミ缶の84%がリサイクルされている。誰でもペットボトルやアルミ缶を購入すると必ずデポジットを払わなければならないが、このデポジットは、リサイクルすれば戻ってくる仕組みになっている。
リサイクルの仕組みはかなり整備されているように見えるが、まだ改善の余地がある。目標は90%のリサイクルである。
スウェーデンのデポジットシステムは、小売店や飲料メーカーが所有する会社であるレトゥーパック(Returpack)が運営している。消費者はパントアウトマット(pantautomat)というスーパーなどに設置されている回収機にペットボトルや缶を入れる。消費者は多くの場合、デポジットを取り戻すか、その分をチャリティーに寄付するかを選ぶことができる。リサイクルされたボトルや缶はノルチェピング(Norrköping)市の回収拠点に運ばれ、リサイクルされて新たなボトルや缶に生まれ変わる。
この持続可能なリサイクルの仕組みはヨーロッパの中で最も古い施策の一つである。スウェーデンでは、消費を目的とした全ての飲料ボトルや缶は市場に出る前に、認可されたリサイクルシステムの中に組み込まれることが法律で義務付けられている。
新たな命が吹き込まれるのを待つ古いカンたち。Photo: Crelle Fotograf
8.走行中に充電できるスマート道路
スウェーデンのゴットランド(Gotland)島では、電気トラックやバスが走行中に充電できる世界初のワイヤレス電気道路が開通した。これはヴィスビー(Visby)空港と市内中心部を結ぶ短い道路で、電動歯ブラシの充電器の働きと同様に、電磁場を利用した誘導によって電気自動車に電力が伝えられる。
スウェーデンの気候に関する目標の1つは、国内交通機関からの排出量を、2030年までに2010年と比べて少なくとも70%削減することである。その一環として、スウェーデン運輸庁(Trafikverket)は、2030年までに国内で最も交通量の多い2,000kmの道路を電化する計画を託されている。
この目標を達成するために、スウェーデン国内のさまざまな場所で電気道路の実験が行われている。ストックホルム・アーランダ(Arlanda)空港近くの道路では、2017年から車道に設置された電気レールで貨物車を充電している。またすでに2016年には、スウェーデンの都市イエブレ(Gävle)とサンドビーケン(Sandviken)を結ぶ高速道路で、公道上の世界初の電気道路区間が開通している。この電気道路は架空電力線を使用し、トラックには路面電車のようにパンタグラフが搭載されていた。このプロジェクトは2020年に終了した。
*国内航空は、EUの排出権取引制度(EU Emissions Trading System)に含まれるため、ここでは取り上げない。
ストックホルム郊外のイーロード(e-road)プロジェクトでは、道路に敷設された線路から電気トラックに電気を供給している。Photo: (collage): eRoad Arlanda
9.太陽電池式の水素充填ステーション
2019年、スウェーデンのマリエスタッド(Mariestad)という町に、世界初のオフグリッドの(=送電網につながっておらず自給自足の)太陽光発電による水素製造・充填ステーションが一般公開された。このステーションは、近くの太陽電池設置場からの太陽エネルギーのみで100%稼働している。
この太陽エネルギーを利用して、電力網のバックアップ電源として使用可能な排出ガスのない水素ガスを製造することで、太陽光発電によるエネルギーを四六時中供給することができる。この水素ガスは、自動車、トラック、電車そして将来的には飛行機の燃料としても利用可能である。
このように、水素は、電気自動車が使用する高価なリチウム電池を必要とせず、化石燃料も不使用の、競争力ある輸送用燃料源となる可能性がある。
マリエスタッドは、よりサステナブルなエネルギーの解決策を見つけるべく積極的に活動している。この町のオフグリッド水素ステーションは世界初の大きな一歩である。Photo: Tuana/ Mariestads kommun
10.廃棄物から地域暖房に
1948年にスウェーデンで最初の地域暖房システムが導入されて以来、家庭の暖房のためのエネルギー効率の高い方法を提供すべく、さまざまな努力がなされてきた。スウェーデンの2番目に大きな都市であるヨーテボリでは、ほとんどのビルや家が地域暖房システムの地下パイプやケーブルのネットワークに接続されている。
電気や石油で各建物を個々に暖房する代わりに、この気候に配慮した廃棄物をエネルギーにする方法は、ゴミを燃やしたり、工業生産やデータセンターから集めた余剰熱などの地域資源を利用して水を温め、システムに接続されているすべての人々に供給するというものである。これにより、システム内の全エネルギーの93%をリサイクルまたは再生可能な資源から調達している。
ヨーテボリ市は、市営のエネルギー会社であるヨーテボリ・エナジー(Göteborg Energi)社を通じて、この効率的な方法を先導している。この方法は、市内のアパートのほか、約12,000軒の個人住宅、多くの産業、オフィス、店舗、公共施設で使用される暖房の90%をカバーしている。
スウェーデンでは、地域暖房が最も一般的な暖房の熱源となっている。ストックホルムでは、暖房の80%が地域暖房による。地域暖房は、コスト削減や二酸化炭素の排出量の削減など、環境面で大きなメリットがある。
ヨーテボリはシャレを利かせることで有名であり、写真左の60メートルの高い蓄積タンクは「魔法瓶」と呼ばれている。このタンクは地域暖房システムの余剰熱を蓄え、必要に応じて再供給できるようになっており、あたかも魔法瓶で飲み物を保温するようになっている。Photo: Göteborg Energi CC
原資料掲載ページ:https://sweden.se/climate/sustainability/10-ways-to-a-greener-future
翻訳時点の最終更新日 2021年6月1日
翻訳 廣田啓、吉田杏香、雜喉恋子
監修 明治大学国際日本学部教授 鈴木賢志
本稿は在日スウェーデン大使館から許諾をいただき、作成・公表しております。適宜修正することがあります。記載内容によって生じた損害については、一切責任を負いかねます旨、予めご了解ください。写真・図表はSweden.seに掲載されたものをそのまま転載しています。他サイトへのリンクは転載しておりません。