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モージャン(Mojang)、キング(King)、ダイス(DICE)は全てスウェーデンの会社である。スウェーデンのゲーム業界に関する驚くべき事実をここにまとめて記そう。
ドリームハック(DreamHack)Photo: Jann Lipka/imagebank.sweden.se
1.10億人のプレイヤー
約10億人のゲーマーがスウェーデン人の開発したゲームをしている。スウェーデンのゲーム業界が急成長していることは不思議なことではない。控えめに言っても、2009年から2019年までの成長はものすごく、スウェーデンのゲーム開発者インデックスによれば、この業界の総収益は9,100万ユーロから23億1800万ユーロへと、実に25倍に増加した。
スウェーデンのゲーム業界は、モージャン(Mojang)、キング(King)、ダイス(DICE)といった有名企業だけでなく、全体としてより大きな規模に成長したのである。
2.サブカルチャーから成功へ
初期のビデオゲームは、主に日本、アメリカ、イギリスで開発された。1980年代初頭になると、スウェーデンやその他いくつかの国に「デモシーン」と呼ばれるサブカルチャーが登場しました。そこでは、コモドール64 やアミガのような初期の家庭用コンピューターを用いて、ビデオショーやオーディオショーを通じたプログラミングスキルの見せ合いが行われていた。
このデモシーン文化から生まれた会社の例がデジタルイリュージョンズ、現在のDICEである。1992年に、友人4人が起業したこの会社は熱狂的なファンを生み出したドリームピンボールを発売、これに続くバトルフィールドシリーズは大ヒットを生み出した。
バトルフィールドは、DICEのゲーム業界での地位確立に一役買った。Photo: Melker Dahlstrand/imagebank.sweden.se
2015年~2019年におけるスウェーデンのゲーム業界 企業数:87%増 売上:84%増 利益:11%減(2016年の8.72億ユーロがピークで、2019年は4.67憶ユーロ) 雇用者数(世界規模で):131%増 出所:Swedish Game Developer Index |
3.マインクラフト(Minecraft)の熱狂
2021年3月の時点で、毎月1億4,000万人以上がマインクラフトをプレイしている。モージャン(Mojang Studios)が開発したこの人気のサンドボックスゲームは、プレイヤーが幅広い種類のブロックを使用して3Dの世界を作り、その新しい世界でアイテムの探索と作成を行うものである。
マインクラフトは、マークス「ノッチ」ペーション(Markus ‘Notch’ Persson)が趣味で作ったゲームから始まった。2009年に初版が発売され、ゲーマーたちの間ですぐにヒットした。その急速な成功は、モージャンの設立につながった。ペーションは、2014年に25 億ドルでマイクロソフトにこのゲーム会社を売却した。
スウェーデンゲーム企業の売上トップ10(2019年) 1. Mojang 2. Embracer Group 3. King (Midasplayer) 4. Stillfront Group 5. EA Digital Illusions CE 6. Paradox Interactive 7. G5 Entertainment 8. Ubisoft Entertainment Sweden (Massive) 9. Avalanche Studios 10. Starbreeze 出所:Swedish Game Developer Index |
4.ゲーム文化
スウェーデンのゲーム業界団体(Dataspelsbranschen)のペール・ストレンベック(Per Strömbäck)広報は「スウェーデンがゲーム大国になった理由の一つは、ゲームを取り巻く文化に対する相性の良さである」と述べている。
「ゲーム開発は、何もない場所では成り立たない。ゲーマー、eスポーツの競合他社、ドリームハック(Dream Hack)のようなゲームフェスティバル、ユーチューバーなどが組み合わさってゲーム開発は成り立っている。そしてスウェーデンは、その一つ一つが総合的に高い水準にあるのだ」と述べている。
スウェーデンのユーチューバー、PewDiePieのチャンネル登録者数は1億人以上であり、ドリームハックは世界最大のデジタルフェスティバルである。ビデオゲームの競技であるイースポーツにおいては、スウェーデンには世界トップレベルのプレーヤーが数人おり、スウェーデンは世界第2位のイースポーツ市場となっている。
5.スウェーデン人はコンピューターの経験が豊富
スウェーデンのゲーム業界の隆盛には、人々の高いコンピューター操作能力が果たす役割も大きい。コモドールが登場した1980年代より、すでにスウェーデンは他国に比べてコンピュータが普及していた。
1998年、政府と労働組合の主導のもとで補助金と税優遇措置が設けられ、雇用者がパソコンを安価でリースし、それを買い取ることもできるようになったことで、家庭用コンピューターがさらに普及した。これによって、一般の人々のコンピューター操作能力がさらに高まり、より多くの人々がコンピューターゲームをすることにもつながった。
6.初期のインターネットアクセス、初期のゲーマー
インターネットアクセスは私達のデジタル経済社会のバックボーンであり、オンラインゲームにアクセスする手段でもある。政府が全国のブロードバンドアクセス整備について野心的な目標を掲げたことで、スウェーデンのネット接続は早いスタートを切ることができた。
ゲーマーとゲーム開発者の国としてスウェーデンが発展する上で、高速インターネットは重要な役割を果たしてきた。
7.スタートアップに優しい
2019年には、51の新しいゲーム企業がスウェーデンで設立された。スウェーデンが世界銀行によって「ビジネスに優しい」と評価されていることや、新しいビジネスの開始を支援するスタートアップハブやゲーム産業の企業集団があることが、その背景にあると考えられる。
世界競争力指数によると、スウェーデンは世界で最も競争力のある上位10カ国の内の1つでもある。このランキングは、長期の比較的安定した経済、高いICT導入率、高いイノベーション能力とビジネスの活発さに基づいている。
初期のリスクテイカーの成功が次の世代を奮起させているというのは大げさな推測ではない。ダイス、モージャン、キングをはじめとする、いわゆるユニコーンと呼ばれる10億ドル規模の企業が刺激となっている。
8.良いテスト市場
スウェーデンのような小さい国内市場で事業をすることには利点がある。第一の利点は、開発者達が、より人口が多い国々の開発者達よりもずっと早くに、欧米市場全体に焦点を合わせ始めるということである。
もう一つの利点は、製品の「ソフトローンチ」がはるかに簡単になることである。つまり、まずスウェーデン国内でゲーム販売を開始し、世界展開をする前に意見を集めたり、バグを修正することができる、ということである。
ドリームハック・フェスティバルは、年々多くの参加者を集めている。2020年には、世界最大のイースポーツ企業であるESLと統合した。Photo: Rodrigo Rivas Ruiz/imagebank.sweden.se
ダイスは2006年よりエレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)の一部門となっているが、本社はストックホルムにある。Photo: Melker Dahlstrand/imagebank.sweden.se
ソルガードの伝説(Legend of Solgard)では、プレーヤーは氷の悲劇に見舞われる終末の日から世界を救わなければならない。Developed by Snowprint Studios, launched by King. Image: King
マインクラフトを創作したモージャンはストックホルムを拠点としている。Photo: Melker Dahlstrand/imagebank.sweden.se
2019年時点で、スウェーデンのゲーム業界の雇用者の4人に1人が女性である。Photo: Simon Paulin/imagebank.sweden.se
9.より多くのゲーム開発者を求む
スウェーデンのゲーム産業の成功の背景にある重要な要因の一つは有能で創造力のある労働力である。急速な成長は採用を困難にするものだが、スウェーデンではその困難は比較的小さい。現在、多くのスウェーデンのゲーム企業は、才能ある人々を海外の拠点で雇用している。
10.勝つためのチームワーク
ゲーム開発者もまたゲーマーなので、彼らも勝つためにゲームをする。しかしゲーム開発はチームスポーツである。そしてスウェーデン人は共同制作に長けている。
ゲーム開発は、より反復的な方法へと進化している。事前に決まった全体の青写真に従って開発するというよりも、まず細かな部分を開発し、それを関係者で確認、議論し、つけ足していく。これはフィードバックと共同制作の手法に基づいており、階級的な上下関係のもとでは機能しないのである。
原資料掲載ページ:https://sweden.se/work-business/business-in-sweden/10-facts-about-swedish-gaming
翻訳時点の最終更新日 2021年6月1日
翻訳 山下玲奈、石井杏梨
監修 明治大学国際日本学部教授 鈴木賢志
本稿は在日スウェーデン大使館から許諾をいただき、作成・公表しております。適宜修正することがあります。記載内容によって生じた損害については、一切責任を負いかねます旨、予めご了解ください。写真・図表はSweden.seに掲載されたものをそのまま転載しています。他サイトへのリンクは転載しておりません。